橋下徹知事・私の問題意識(「教育」への私の思い)
     2010年12月28日 大阪府のホームページに掲載

 大阪は、犯罪発生率などの治安面、失業率などの雇用面、生活保護率、離婚率など、あらゆる指標で全国ワーストかそれに近い状況です。いわゆる「大阪問題」です。もちろん、解決に向けた対策がそれぞれ必要です。しかし、大阪の低迷、「大阪問題」の根本はどこにあるのでしょうか。抜本的な解決への糸口はどこに見出せるのでしょうか。私は、それは教育にある、「教育」という未来への投資こそが、大阪の明るい展望を切り拓く唯一の手段だと確信しています。
 よく言われるように、教育は「階層移転」の最も効果的なツールです。しかし、これが十分に機能していないのではないでしょうか。家庭の経済的事情に左右され、行きたい学校への進学を断念しているのではないでしょうか。保護者の収入や社会的地位、家庭の経済的事情によって、子どもが受ける教育に差が出ると、「階層移転」が生じず固定され、そこで“負の連鎖”が生じることになります。そうであれば、何とかしてこれを断ち切らなければなりません。家庭の事情で行きたい学校に行けないという子どもをなくしたい。頑張る意欲を持つ子どもをしっかりと応援したい。これが私の第一番目の思いです。
 そして、大阪という都市の成長の担い手は、いわゆる「ボリュームゾーン」といわれる中間層です。この中間層そのものが大きく弱体化したことが、大阪に“負の連鎖”を招き、「大阪問題」を引き起こしているのではないでしょうか。「ボリュームゾーン」をこれ以上弱体化させない。低所得層から中所得層へ、さらには、中所得層から高所得層へと移転を促進する。「ボリュームゾーン」をターゲットにして、大阪全体の底上げにつなげたい。これが私の第二番目の思いです。
高校教育
 
今回の私立高校等の授業料無償化の大幅な拡充は、こうした問題意識のもとに決断しました。国公立高校については、すでに国の政策で全世帯が無償化されています。今回の府の措置により、大阪の子どもたちは、中学校卒業段階での学校選択権が大幅に拡大されることになります。一学年約7万人の7割にあたる5万人が、無償もしくは低額の負担、つまり授業料をほとんど気にせず、公立でも私立でも、自由な学校選択の機会、「ワン・チャンス」を得ることができます。これは、生徒・保護者にとって、また、公立・私立学校双方にとって、かつてない規模、他府県に例をみない大きなインパクトを持つ政策です。
 この制度に参画する私立高校等には、「標準授業料」を設定し、それを上限として府の財源を投入します。根幹は、それを超える部分に保護者負担を認めないということです。これを認めてしまうと、「生徒・保護者が実際に支払う授業料の面で同一条件を確保する」という本来の趣旨を損なうことになります。私は、この点にとことんこだわりました。
 制度への参画は、学校の意思に委ねます。今回のねらいは、「ボリュームゾーン」にあります。想定している学校は、「授業料設定に制約を受けながらも、より高い付加価値のある教育を、中低所得層を含む幅広い層に提供する学校」です。クルマでいうと、多くの人の手が届く範囲にある国産車の一層の高質化・多様化を図り、全体の層の厚みを増すということです。ですから、少人数教育や系列大学との連携など、「高い授業料を自由に設定して、それ相当に高い付加価値のある教育を、特定の層に提供する学校」からは参画を拒まれてもやむをえないと覚悟していました。しかし、現段階でほとんどの私立高校の参画が見込まれる状況にあります。また、私立高等専修学校も制度の対象とし、こちらからも多くの参画を得ることができました。このことにより、英数国理社だけではなく、大阪の子どもたちの将来の選択肢を大きく広げることができるでしょう。ありがたいことです。
 この制度の導入によって、いよいよ、公私が切磋琢磨するための同一の土俵ができあがります。これからは、公立も私立も、誰が設置者かではなく、学校そのものが生徒や保護者から選択される存在でなければ生き残れません。もはや、これまでのように「公私7・3枠」で生徒が入学してくるという状況は保障されません。大阪の学校勢力図は大きく塗り替わることになるでしょう。それぞれの学校が、徹底して自らの特色や魅力を高め、懸命にそれをアピールする。生徒獲得のために奔走する。こうした切磋琢磨が生じ、大阪の幅広い層、まさに「ボリュームゾーン」の教育を担う学校の質が高まり、全体として大阪の高校教育の質が格段に向上すると確信しています。
 なお、今回、私立高校の経常費補助金については、「パーヘッド(生徒単価均等)の原則」を基本としながら、それに加えて、「頑張る学校」に特別加算を行う仕組みを設定します。各学校の生徒獲得の努力、パフォーマンスの高さに応じて補助金が配分される仕組みです。府立高校についても、さらなる特色づくりと学校経営マネジメントの強化を柱とする改革を進めます。あわせて、公立と私立が同じ基準で教育のコストや内容が評価される仕組みづくりを進めたいと考えています。
義務教育
 
高校教育段階でこうした思い切った投資を行うこととしましたが、それだけでは、大阪の教育は万全とは言えません。大阪の子どもたちの9割以上が通う公立小中学校。その現状に対して不安を募らせる保護者は増加しています。公立の義務教育が現状のままでは、中学校卒業段階でのせっかくの「ワン・チャンス」も、生徒・保護者にとっては絵に画いた餅になってしまいます。私立小中学校や学習塾など個人で教育に投資できる一部の層だけが、自由な高校選択権を獲得できることとなり、かえって格差が拡大する恐れがあるからです。
 私が「全国学力・学習状況調査」の市町村ごとの結果公表にこだわる理由について、学校現場では、単に競争をあおっているだけとの誤解があります。もしそうなら、ランキングを府のホームページに掲げておけば済みますが、そんな単純な話ではありません。大阪の子どもたちにとって一番大切な義務教育。それがこのような嘆かわしい状態になっていることについて、誰が説明責任を果たすのかを問いかけました。私は、やはり市町村長だと考えます。
 確かに、現行教育委員会制度の壁が立ちふさがります。しかし、その前で手をこまねいている場合ではありません。私も、知事として、府民感覚の意見をストレートに教育委員会にぶつけ、侃々諤々の議論を繰り返しながらここまできました。
市町村の首長は、責任を持って市町村民の声を教育に反映させる。教育委員会はしっかりとそれを受け止め、首長とともに市町村民に対する説明責任を果たす。もちろん、子どもたちへの日々の教育を実践する責任は学校が受け持つ。そして、各学校をバックアップし、市町村民に対する義務教育の水準を上げるのは、市町村の首長と教育委員会の連帯責任。そのために必要な権限は、府から市町村へ移譲していきます。
 府教委は、大阪府域全体の観点に立ち、めざすべき教育の目標や水準を設定する、府内統一の学力テストの実施などにより、その到達度を測定する、その結果を市町村ごとに公表して市町村民や議会に周知し、議論を喚起する。市町村の首長や教育委員会は、市町村民の声を聴き、自らの創意工夫と努力で改善策を講じる。この大阪全体のPDCAサイクルの仕組みを確立し実践することが、府教委の役割なのです。
 府教委による「目標設定」と市町村教委による「結果公表」。この二つを機能させないと、府教委が教員人事権や予算配分を通じて市町村教委をコントロールする構図がいつまでも続きます。私は、真っ向から市町村民に説明責任を果たす市町村、覚悟とやる気のある市町村、努力する市町村をしっかりと応援します。
むすび
 
知事就任以来、私は、大阪の子どもたち、日本の子どもたちへの教育に徹底してこだわってきました。本格化するグローバル競争。優秀な外国人を採用する日本企業が増加しており、能力がますます厳しく評価されます。このままでは日本の子どもたちは取り残されてしまう。その危機感はますます高まっています。子どもたちの将来を思い、教育の現場、教育行政に携わるすべての人に、この危機感を共有してもらいたいのです。
 こうしたなか、私は、大阪の高校教育の条件を格段に向上させることを決断しました。同時に、市町村には、公立小中学校教育の質の向上に懸命に取り組んでもらいたいと考えています。このふたつが結合してこそ、「大阪の教育は日本一。小中高一貫して日本一」と誇れるようになります。そして、このことにより、必ずや10年後、20年後の大阪を担う人材、国際社会で通じる人材を育てることができます。大阪の低迷からの脱却、ひいては「大阪問題」の解決に向けた大きなエネルギーを産み出すことができます。私はこのことを確信しています。
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